水中オブジェに生き物のような動きを与えているのは、水の流れを起こしている、水槽の舞台裏の配管群である。
水中オブジェを鑑賞する眼からは見えないよう暗く閉ざされた水槽の片隅に私はこの配管たちを押し込めてきた。
水槽の洗浄作業で様々な設置場所に出かけては、押し込めていた配管群の蓋をあけ、溜まった汚れを掻き落としてやると、配管たちはまた息を吹き返し、水中オブジェに命を与え始める。水の流れを生み出している配管は水槽世界の心臓部であり血管である。
私は水槽のメンテナンスに行くたびに、この舞台裏の配管たちに同情を感じる反面、しぶとい生命力を感じずにいられなかった。
クラゲ稼業が不況に落ちいった年のある夏の午後、時間を持て余した私は、在庫していた大量の配管部品を整理しながら何の気なしに組み合わせているうちに、ふとその配管接続作業に取り憑かれてしまった。
工業用部品として都市や工場やオフィスビルの隅々にまで命の水を巡らせていく配管には、縮める、拡げる、伸ばす、分けるといった生命体にもよく似た様々な機能部品が用意されている。
冷房のない蒸し暑い倉庫の中で配管を次々に組み合わせながら、頭はぼんやりとしていたが、次はどう伸ばして、どう分岐してと、私自身が、考える必要はほとんどなかった。
まるで配管自らが、私の手を駆動源として、成長点を持った生き物のように、テンポよく空間を這い、潜り、分岐して伸びていくのだった。