オブジェのもととなる素材は、人工筋肉としてはパワーもスピードも出ず、不適格の烙印を押された研究材料であった。
しかしたまたま人工筋肉の成型不良により端っこにちょっと残っていた薄いバリの美しさに注目して、薄膜を安定して作る方法、 よりしなやかに成型する方法・小規模な工房でも制作可能な加工方法などを改良することにより浮遊体アートの基本材料として育ててきた。
この材料を用いて、水の中で浮遊感をもって優雅に美しく動く形を探してきた。
ひらりと翻るスカートのような薄い膜。水の抵抗を受けて、変形しやすい球形・・・ これが抵抗力の働く方向を変えて、水流の中でランダムな動きをするもとになっている。
お菓子のマドレーヌが薄皮だけになって水中で泳ぐとしたら、こんな感じではないかと想像して、 浮遊体アート「マドレーヌタイプ」と名づけてみた。
だが、このオブジェを見て、「マドレーヌですね!」と言ってくれた人は、私以外に今だかつて一人もいない。
たいてい「クラゲですね!」 という言葉が返ってくる。
後に海外の様々な施設・店舗に設置に行ったときも、その国の言葉で、「Oh!!クラゲ!」という言葉が聞こえてくるのだった。
浮遊体アート?? これはアートじゃないでしょう、よくできたニセクラゲですよ・・・
そう言ってくれた人たちが私のオブジェを買い仕事を支えてきてくれた。
今ではこのクラゲインテリア制作が私の主な仕事である。
アート作品としては、このオブジェを見た人々の反応に対して、どう答えていくかをテーマにこれまで展開してきた。
これはクラゲなのか? これは生き物なのか? ホンモノなのかニセモノなのか? そもそもあなたは、なぜクラゲを作るのか?
マドレーヌ以降のアート作品、「記憶の捏造」「生命の捏造」・・・などの作品は、そうした問いに対する自分なりの答えだ。
アートに限らず面白いモノづくりはすべて、材料との、自分との、人との、環境との、ちょっとピントはずれの対話から生まれてくると思っている。