育黄
Growing Yellow
Eimei Okuda
2005

育黄
奥田エイメイ 2005年

人工筋肉系樹脂・水槽・照明
制作 奥田エイメイ&浮遊Factory
写真 Eimei Okuda

 私は、作りたいもののイメージが先に見えて、それに向けて形を寄せていく作り手ではない。まず言葉で、「浮遊とは・・・」「もともとは星だった、キノコだった・・・」「生物と非生物の狭間を・・・」「単純なのに生きて見える形・・・」こういう言葉を先に発することで、言葉の持つ形を生み出す力、現実を変形する力を用いて、なんとか形を搾り出していく。もとはといえば私は小説や戯曲の書き手になりたいと思っていたのだった。  

 クラゲの形を変形していくために、詩を書いてみたり、散文を書いてみたり。作品展「育黄」のときも私は、DMに添える言葉遊びのような文章を書きながら構想を練った。

 育毛あきらめ・・・育 黄

お会いする方々から、めっきりクラゲちゃんに似てきましたなあと
指摘されることが多くなってきた今日この頃
私 奥田エイメイ クラゲイメージ脱却すべしと
育毛始めたのであります
いえ自分の頭ばかりではありません
あのぐにゃぐにゃぐじゅぐじゅつるつるオブジェの頭にも
もうクラゲちゃんとは言わせぬとばかり
クラゲ頭に毛を生やすべく奮闘してきたのであります
育毛、育毛、育もう、育もう、いくもう、いくもう
あまり大きな声では言えぬが、育毛、いくもう、いくもう、いくもう、いくもう、いくもう、いくもーおーう いくもーーーおーーーう!
幾度 いくもうと唱えても
この言葉ほど育ってくれぬ空しい言葉はなかった
あ クラゲつくったはる…オクダさんね
あは よう似てはるわ
もう ろう とする意識の中で
もう を育てるのが もう アカンのなら
おう があるではないかと
やけくそ気味に思いつめ…
それゆえに 私、奥田エイメイ
おう! を育てる決意をしたのであります
おう オウ 王、欧 応 央 凹 OU!
私が黄を選んだのは
黄という文字が 私の大好きな
テントウ虫に似た形だったからなのかもしれません

浮遊体アート作品  浮遊体アート作品
浮遊体アート作品  浮遊体アート作品
 

 「育黄」は、黄というなんとなく虫っぽい形の文字が、種から発芽し、成長して泳ぎ回り、枯れてまた種を結ぶ様を、文字の変形と黄色の微妙な変化で表現した作品である。

 浮遊体アートに興味を持ってもらったデザイナーのAlan Chan氏(Alan Chan Design Company)に呼ばれて出かけていった香港で、字が生き物のように生きて躍っているようにみえたことがある。同じ漢字なのに、どうしてこんなに受ける印象が違うのか不思議に感じた。

 そのとき香港で描いたスケッチをもとに、文字の変形アイデアを練っていった。字を変形させ、浮遊させるというのは、今後も続けていきたいテーマだ。

 文字の表現にあたって、このオブジェに用いる含水性の樹脂で文字を作る手法を開発した。もちろん文字だけではなく、様々な図形や写真(点描)の転写も原理的な見通しがついた。今後の表現方法にずいぶんと幅をもたせることになった。

 この「育黄」展では、制作にまつわる文章を垂れ幕にして、水中アートと共に展示した。

 水槽を作ったり浮遊体を作ったり、新たな制作手法を生み出すには、お金がかかるけれど、言葉だけは、どれだけひねり出してもタダである。それは何にもまして素晴らしい。

浮遊体アート作品

垂れ幕の文章は、あまりにも長いので割愛。同時に展示した、育黄解釈の文章のみ以下に転記する。

育黄 解釈A


生物 → 記号
生き物の姿の影を
平面に刻みつけ
化石化させた記号
象形文字
今回の試みは
この化石を水に浸け
ふやけさせ
記号 → 生物
への逆変換を試みる過程の中で
文字という影に
命が吹き込まれるポイントを
炙り出そうとするものである

育黄 解釈B


生物はみな必要性のある方向に
みずからを改造すべく
進化の歴史をたどってきた
寒かったから毛を生やした
歩いてみたかったから脚を生やした
名前を呼ばれるたびに
いちいち答えるのも
面倒くさいと感じたある生物が
名前を刻んだ文字を
顔に生やしたとしても
何の不思議もないのである